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『虐殺器官』(2017年) -★★★★☆-

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製作: 2017年 日本
時間: 120分
原作: 伊藤計劃
監督: 村瀬修功
脚本: 村瀬修功
音楽: 池頼広
声の出演:
   中村悠一(クラヴィス・シェパード)
    三上哲(ウィリアムズ)
    梶裕貴(アレックス)
    石川界人(リーランド)
    大塚明夫(ロックウェル大佐)
    小林沙苗(ルツィア・シュクロウポヴァ)
    櫻井孝宏(ジョン・ポール)

あらすじ

9.11、そして5年後にサラエボで起きた手製核爆弾を用いた無差別テロを受け先進国は個人のプライバシーを犠牲にした監視社会を確立、それらを一掃する事に成功する。
その一方で行き場を失ったテロリズムの波は途上国へ向かい貧困国では内戦が激化し虐殺が横行するなど世界は二極化の一途を辿っていた。

混迷を極める諸外国の平和を維持すべく、その妨げになる対象の調査・暗殺を行うアメリ情報軍特殊検索群i分遣隊に所属するクラヴィス・シェパード大尉に、虐殺の陰で暗躍する謎のアメリカ人言語学者 ジョン・ポール追跡の任務が言い渡される。

ジョンが最後に接触したとされる女性ルツィアに接近し聡明な彼女に次第に惹かれていくクラヴィスは、やがて人の脳に備わった「虐殺」を誘発する器官の存在、そして貧しい国を訪れ人々を殺し合わせるジョン・ポールの真意を知る事になる…。

予告映像

感想

34歳の若さでこの世を去ったSF作家・伊藤計劃さんのデビュー作にして最高傑作との呼び声が高い『虐殺器官』が制作会社の倒産という困難を乗り越え遂に完成し、当初の予定から1年4ヵ月遅れでようやく劇場公開されました。

個人情報を徹底管理することで平和を享受する先進国と反比例して暴力が渦巻く途上国。
物語は米国特殊部隊に所属する主人公クラヴィスが「虐殺の王」と呼ばれる謎の人物ジョン・ポールを追う追跡劇であり、その過程で人間の脳に秘められた特性と現代社会の矛盾に鋭く切り込んでいきます。

陳腐な表現ですが映像は「実写さながらのクオリティ」に仕上がっており、アニメ的な誇張表現を抜きにした演出は沖浦啓之監督の『人狼 JIN-ROH』を彷彿とさせる。
ウィッチハンターロビン』『エルゴプラクシー』とスタイリッシュな作風に定評のある村瀬修功監督のセンスも随所で光っており、SFガジェットの緻密なデザインやその機能性などはフィクションである事を忘れさせるほどの説得力があって本当に素晴らしい。

網膜に張り付けるコンタクト状のディスプレイや、言葉を発せない状況でコミュニケーションを行うため口内に仕込まれたキーボード、さらに秘密作戦を行う主人公たちの装備は有機物質で出来ており廃棄すると自然分解されるなど「よくこんな発想が出てくるな」と感心しっぱなし。

情報量がとにかく多いので気を抜くと「あっ」という間に置いて行かれますが、伊藤計劃さんがファンを公言していた小島秀夫監督作品(特に『MGSシリーズ』)や『攻殻S.A.C.』『サイコパス』といったタイトルが好きであれば、むしろこの難解さが心地よく感じられるでしょう。

中の人的に槙島聖護と馬締光也の顔がチラつくジョン・ポールの意外な真意と、脳に秘められた虐殺を促す機能の正体。
そして痛覚を遮断し感情を抑制する事で人間性が希薄になったクラヴィスが直面する、欺瞞に満ちた監視社会の真実。
全てを救う事は出来ない、では2つの世界のどちらを守るのか?。

現代社会の終わりと新たな世界の幕開けを告げるエスケープ・フロム・L.A.』的なラストは直接的な描写こそないものの、きちんと物語を追っていればクラヴィスの出した結論を読み取る事が出来るでしょう。
聞けば『虐殺器官』の後に執筆された『ハーモニー』は本作のその後の世界が舞台になっているとの事で、そう言われると色々な部分に合点がいきました。

ちなみに本作はハリウッドでの実写化が発表されており、現時点では『オールドボーイ』のパク・チャヌク監督がメガホンをとる予定との事ですが、アメリカ軍人が子供(少年・少女兵)の頭を吹き飛ばしたり、カタストロフを引き起こすなど、どこまで原作通りに出来るか不安で仕方ありません。
その部分を誤魔化したり改変すると本作のメッセージ性が薄れてしまうので、やるなら最低限このアニメ版くらい逃げずに描いて欲しいものです。
(まぁ『オール・ユー・ニード・イズ・キル』ですら、ああなったから無理だと思うけど…)