言わずと知れた特撮マニアにして『トップをねらえ!』『ふしぎの海のナディア』『新世紀エヴァンゲリオン』を手掛けた庵野秀明が総監督を務めた12年ぶりの国産ゴジラを初日の初回上映で鑑賞。
特集などではことさら「リアリティ」が強調されていますが、前半はともかく後半は「予想よりアニメだった」というのが率直な感想で、怪獣映画というよりは政治家を主役にした人間ドラマ、ひいては日本人賛歌な内容であった。
その発言は一蹴されるが、直後に謎の巨大生物が人々の前に姿を現す。
唐突に幕を開け緊急時の官邸内部の動きがテンポよく描かれる序盤。
マニュアル的な対応、楽観主義、被害よりも責任の所在を重要視する発言など、風刺の効いた長々とした会話が続くのだが、さほどだれることもなく見れるのは編集の妙であろう。
と同時に観客を困惑させるゴジラの意外な生体が明らかになるのだが、それは観てからのお楽しみ。
何気にここはある部分が初代ゴジラを踏襲していてニヤリとさせられる。
二段構えによる焦らしプレイを経て、物語は本格的に動き出す。
ここからはとにかくスピーディーで、あとはクライマックスまで突っ走る。
したたかな近隣諸国の動きや、同盟国である米国の素早い行動など、これまでのゴジラシリーズでは踏み込めなかった国際社会の動向がきちんと描かれている点が素晴らしい。
世界は地続きであり、現実にこのような事態が起きれば他国は静観などしているわけがない。
やがて人類全体の脅威に対して当然の帰結として、人が作り出した最強の力の使用が提言され、日本政府はその決定を甘んじて受けるよう強要される。
合理的だがそこに生きる人々の想いを無視した決定に対し、主人公の蘭堂とその仲間たちは「諦めず最後までこの国を見捨てずにやろう」と奮闘し、人と人のつながり、そして日本という国がこれまで築き上げてきた信用によって、ある作戦を実行に移す…。
終盤の展開はご都合主義的と言えばそれまでだが、困難を前にして発揮される日本人の高潔さ。
世界中の人々が感嘆するチームプレーは3.11で誰もが目にしたことであり、決して絵空事などではない。
本作は「現実」対「虚構」というキャッチコピーがついているが、同時に「現実主義」対「理想主義」としても見ることができる。
ハッキリ言って怪獣映画として見ると物足りず、怪獣による破壊や派手なドンパチを期待しているであろう、お子様や海外のファンから不評を買うのは間違いない。
CGも善戦しているがところどころ違和感があり、特撮シーンの少なさなどから製作費もかなり低かったものと推察される。
それでも庵野監督からすべての働く人々への感謝と賛辞。
そして今を生きる日本人への強いエールに胸が熱くなることを保証する。
手に余る力、人間が生み出した罪とどう向き合うか。
その一つの可能性を示すラストはシリーズの中でも異端であり、安易な解決に逃げることなく、このような結末を用意した庵野総監督の英断に敬意を表したい。
お馴染みのBGMや、クライマックスで流れる血沸き肉躍るあの曲。