旧いまここにあるもの

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『言の葉の庭』(2013年) -★★★★★-

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製作: 2013年 日本
時間: 45分
原作: 新海誠
監督: 新海誠 
脚本: 新海誠
音楽: 柏大輔   
声の出演:
    入野自由(秋月孝雄(タカオ))
    花澤香菜(雪野由香里(ユキノ))
    平野文(タカオの母)
    前田剛(タカオの兄)
    寺崎裕香(タカオの兄の彼女)
    井上優(松本)
    潘めぐみ(佐藤)
    小松未可子(相沢)

 

靴職人を志す15歳の高校生タカオは雨が降った午前中は決まって学校をサボり都心の公園で靴のスケッチに熱中するのが日課となっていた。
梅雨を目前にしたある日、何時もの公園に向かった彼はそこで不思議な女性ユキノと出会う。
約束もないまま雨の日だけの再会を繰り返し次第に惹かれ合って行く2人。
タカオは自分の夢を応援してくれたユキノの為に靴を作ろうと決心するのだが、そんな思いを余所に時間は流れ梅雨が終わりを迎えようとしていた…。
私は小学生の頃、雨が好きだった。
雨が降ると学校の休み時間に教室で絵を描いていても「外に出て遊べ」と注意されなかったからだ。
本作を観てそんな幼い頃の気持ちを思い出した。
 
「デジタル時代の映像文学」と評される世界観を作り上げたアニメーション作家・新海誠監督が描く、万葉集をモチーフにした「"愛"よりも昔、"孤悲(こい)"のものがたり。」
「雨が少し好きになる映画」と言われているだけに、その描写もまた本作の見所の1つであります。
 
大人になりたくて必死に背伸びをするコドモと、子供の頃から変化していない自分に悩むオトナ。
そんな2人が惹かれ合い、雨の日だけの逢瀬を繰り返しやがて…。
 
新海作品の真骨頂とも言える、実写を超えた情報量と鮮やかな色彩で叙情的に描き出される背景美術は更に磨きが掛かっていて圧倒される。
朝の澄んだ空気。通勤電車の息苦しさ。深緑や雨の匂い。
梅雨のジメジメ感や夏の暑さまで描き出すその圧倒的な映像美。
毎度思いますが何気ないシーン1つ取っても絵になってしまうのだから凄い。
 
主人公のタカオとユキノが抱える悩みや焦りは誰もが経験する事柄であり、彼や彼女に年齢が近い人ほどその心情に共感し自分を重ねる事が出来ると思う。
関係性に関してはネタバレになるので詳しく書けませんが正直言えば目新しさはなく、ともすれば在り来たりでチープな設定なのですが、キスの代わりに「靴を作る為に足のサイズを図る」という行為を効果的に用いるなどプラトニックな恋愛描写に徹する事でその薄っぺらさを払拭しています。
さり気ない伏線の張り方や、観客の想像に任せるカットなど、出しゃばらない演出も流石です。
 
これまでの新海作品は、想いを伝えないor伝わらないまま終わる事が多かったのですが、本作では最終的に想いが通じ合うのでカタルシスもあって気持ちが良い。 
秒速5センチメートル』の様な「切ない物語」を期待した人はガッカリするかもしれませんが、「消失感」ではなく「2人のこれから」を予感させる終わり方は爽やかな余韻が残って私は好きです。
 
そんなクライマックスを彩った大江千里さんの同名楽曲をシンガーソングライターの秦基博くんがカバーしたエンディングテーマ「Rain」も、「この曲に合わせて本作を作ったのでは?」というくらいキャラクターの心情と詞の内容マッチしていて素晴らしい。
秒速5センチメートル』の「One more time,One more chance」もそうでしたが、この楽曲が流れる事で作品が完成したと言っても過言ではありません。
 
近年オムニバス作品や大成建設のCMなどを除き長編が主体となっていた新海作品としては久しぶりの60分未満のタイトル。
前作『星を追う子ども』でファンタジーという新境地に挑み、今回久しぶりにホームグラウンドへ戻って来たと思ったのですが今までとは違う後味に驚かされる事請け合い。
ファンの間ではこの変化にいろいろと意見があるでしょうが、私としては本作がこれまで発表された中で一番好きな作品になりました。