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今敏監督作品 『千年女優』(2001年) -★★★☆☆-

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原題: CHIYOKO MILLENNIAL ACTRESS
製作: 2001年 日本
時間: 87分
原作: 今敏
監督: 今敏  
脚本: 今敏村井さだゆき 
音楽: 平沢進 
声の出演: 
     折笠富美子(藤原千代子(少女期))
     小山茉美(藤原千代子(中年期))
     荘司美代子(藤原千代子(老年期))
     飯塚昭三(立花源也)
     佐藤政道(立花源也(青年期))
     小野坂昌也(井田恭二)
     津田匠子(島尾詠子)
     鈴置洋孝(大滝諄一)
     片岡富枝(美濃)
     徳丸完(銀映専務)
     京田尚子(千代子の母)
     山寺宏一(鍵の君)
     津嘉山正種(傷の男)

あらすじ

芸能界を引退して久しい伝説の大女優・藤原千代子は、自分の所属していた映画会社「銀映」の古い撮影所が老朽化によって取り壊されることについてのインタビューの依頼を承諾し、それまで一切受けなかった取材に30年ぶりに応じた。千代子のファンだった立花源也は、カメラマンの井田恭二と共にインタビュアーとして千代子の家を訪れるが、立花はインタビューの前に千代子に小さな箱を渡す。その中に入っていたのは、古めかしい鍵だった。そして鍵を手に取った千代子は、鍵を見つめながら小声で呟いた。
 
「一番大切なものを開ける鍵…」
 
少しずつ自分の過去を語りだす千代子。しかし千代子の話が進むにつれて、彼女の半生の記憶と映画の世界が段々と混じりあっていく…。

予告映像

感想

久しぶりにDVDを引っ張り出して観ました。
今敏さんが亡くなられてから関連作品を観返したのはこれが初めてだったりします。
 
長編デビュー作『PERFECT BLUE』の雰囲気とは打って変わって、激動の時代を生きた大女優の半生をインタビューを通して描くこの『千年女優』。
例によって一般の知名度は低いのですが、アニメーションという技法を最大限生かした映像と巧みな構成によって同時期に公開された『千と千尋の神隠し』と共に国内外で高い評価を受けました。
 
誤解を恐れず言えば本作は製作費的にも内容的にも其処まで規模の大きな作品ではありません。
しかし、こと完成度に関しては他の作品を圧倒しています。
87分という決して長く無い時間の中で繰り広げられ摩訶不思議な物語。
起承転結を確りと踏まえた上で登場人物を脇役に至るまで魅力的に描き切った一分の隙もない完璧な構成に改めて脱帽させられる。
 
あまりに無駄がないものだから物語があれよあれよと進んでしまい、まるでジェットコースタームービーを観ている様な感覚に陥る事請け合い。
事実ヒロインの千代子は"鍵の君"に出会ってから走りっぱなしで、目まぐるしく移り変る「現代・過去・未来」そして「夢と現」を交錯させながら映画の終幕まで駆け抜けて行く…。
  
ワンカットで変化する背景や衣装、登場人物の色彩を変え現実と回想を区別されると言った"騙し絵"的な演出はアニメだからこそ出来る手法であり今観ても斬新。
その一方キャラクターの仕草や背景美術は実写と見紛うばかりに描き込まれており、リアルな世界観の中でフィクション然とした題材を描いて来た今監督らしい仕上がりになっています。
 
往年の日本映画をモチーフにした千代子の回想シーンと、その中にまで助太刀に現れる一途な立花。
そして繰り広げられる光景にツッコミを入れる井田。
3人の絶妙な掛け合いを眺めつつ物語を追っているだけでも十分に楽しいのですが、仏教において"転生"を意味する「蓮」が随所に散りばめられている点や、2度3度"観返して"初めて気付く伏線などより深い楽しみ方も出来る。
 
鍵を手に彼の居る世界に向けて旅立つラストシーン。
冒頭と同じ場面でありながら其処に込められた意味は全く違うものであり、賛否両論ある最後の台詞も私は『千年女優』というタイトルに相応しい物だったと思います。