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『攻殻機動隊 S.A.C. SOLID STATE SOCIETY 3D』(2011年) -★★★★☆-

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製作: 2011年 日本
時間: 108分
原作: 士郎正宗 
監督: 神山健治 
脚本: 神山健治 、菅正太郎
音楽: 菅野よう子
声の出演:
     田中敦子草薙素子
     阪脩(荒巻大輔)
     大塚明夫(バトー)
     山寺宏一(トグサ)
     仲野裕(イシカワ)
     大川透(サイトー)
     小野塚貴志(パズ)
     山口太郎(ボーマ)
     玉川紗己子タチコマ
     榊原良子(茅葺よう子)

予告映像

感想

攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXの3rdシーズンとして2006年に一話完結のOVAとしてリリースされた『Solid State Society』を文字通り3D化したこの作品。
 
私自身3Dというのは『アバター』を観た時"平面の映像が等間隔に配置された飛び出る絵本"にしか見えず「何処が3Dじゃ!!、こんなまやかしで映画の本質を疎かにするな!!」と憤怒したので正直なところ本作の3D化にも懐疑的だったのですが、蓋を開けてみれば実写作品よりも全然観れる物に仕上がっておりました。
 
この結果には私自身驚いたのですが、恐らく元々平面な絵で構成されている分「飛び出る絵本」になる事に拒否反応が少なかったのが大きいと思います。
そして主観映像シーンにふんだんに盛り込まれたモニター類の3D化は「実際に電脳化したらこういう風に観えるんだろうな~」と思わせるだけの説得力があり「観る人を電脳化する3D」という謳い文句に嘘偽りはありませんでした。
この辺り"3D技術に振り回される"のではなく"確信犯的に3Dを利用した"野心的な作りとなっており非常に好感が持てます。
 
その一方3D化以外で手が加えられたのは新規作り下ろしのOP映像くらいでストーリーには一切変化が無いので2D版を既に観ている者としては正直言って新鮮味はありません。
しかしながら作品が持つ揺ぎ無いテーマやメッセージ性、そして社会派ドラマとしての完成度の高さには改めて感服させられます。
 
日本国内でウィルスによるバイオテロを計画していたテロリストが次々と自殺するという不可解な事件から幕を開けるこの物語。
彼等が死ぬ間際に残した謎の言葉傀儡廻
早速「公安9課」も捜査に乗り出すのだが、その過程で何者かによって記憶や戸籍を書き換えられたと思しき幼児2万人分のデータが発見される。
一体誰が何の為に?。
やがて事件はこの国の社会システムそのものを揺るがしかねない大事件へと発展していく…。
 
『STAND ALONE COMPLEX』で薬害事件を下敷きに、無意識下で思考が並列化されるネット社会特有の現象をオリジナルなき模倣犯たちの劇場型犯罪によって描き、
『2ndGIG』では難民問題を軸に、一部勢力の思惑によって計画された難民の蜂起というハードな物語の中で惹かれ合う草薙素子とクゼ・ヒデオのドラマを巧みに盛り込んだ神山監督が、この『SSS』で描いたのは少子高齢化・幼児虐待・介護問題といったより身近な題材でした。
 
『東のエデン』の滝沢朗へと引き継がれる傀儡廻「この国はいい加減、誰かが何とかしなければいけない状態に来ている」という痛烈な台詞はこの上無く重く、「その問題を、解決してはならない。」という本作のキャッチコピーもまた法の限界が垣間見える後味の悪い結末と共に深い意味を持ってきます。
こういったテーマをエンターテイメントに昇華出来る神山監督はやはり天才であり、今の日本でこの手の作品を作れる数少ない映像作家の1人である事は間違いありません。
 
傀儡廻の正体が草薙素子の深層的無意識が独り歩きした物だったというオチに加え、中村部長や人形使い義体と言った押井守監督の『GHOST IN THE SHELL』そして『イノセンス』へのオマージュも随所に散りばめておりシリーズ通して観ているファンはニヤリとさせられる事請け合い。
そんじゃ其処らの実写作品よりもよっぽど問題意識が高く見応えのある、この時代を生きる日本人ならば観ておいて損は無い傑作であると私は断言します!!。