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『星を追う子ども』(2011年) -★★☆☆☆-

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製作: 2011年 日本
時間: 116分
原作: 新海誠
監督: 新海誠 
脚本: 新海誠
音楽: 天門
声の出演:
    金元寿子(アスナ(渡瀬 明日菜))
    入野自由(シュン/シン)
    井上和彦(モリサキ(森崎 竜司))
    島本須美(リサ)
    日高里菜(マナ)
    竹内順子(ミミ)
    折笠富美子アスナの母)

あらすじ

学校では優等生、家では働き詰めの母に代わり家事をこなす確り者のアスナは、夕方になると山の中の秘密基地に出掛け猫のミミと一緒に父の形見である鉱石ラジオに耳を傾ける日々を過ごしていた。
 
そんなある日ラジオから流れて来た聴き覚えのない不思議な唄。
それと時を同じくしてアスナは謎の少年シュンと運命的な出会いを果たす。
自分と同じ孤独を抱えたシュンに次第に惹かれて行くアスナ
だが彼は何の前触れもなくアスナの前から姿を消してしまう。
 
「もう一度あの人に会いたい」
 
そう願うアスナの前に現れたシュンと瓜二つの少年シンと、死に別れた妻との再会を切望する教師モリサキ。
アスナは彼等と共に「地下世界アガルタ」への扉を開き、あらゆる願いが叶うという伝説の地へ向け「さよなら」を言うための旅に出る…。

予告映像

感想

個人そして少数精鋭によるアニメーション制作のパイオニアである新海誠さんによる『秒速5センチメートル』以来となる長編アニメーション作品『星を追う子ども』。
 
絵柄が「ジブリっぽい」と話題ですが、インタビューによると親しみを感じる普遍性を獲得しているデザインを探求した結果こうなったそうです。
確かに今までの絵柄でこういったファンタジーをやってもパッとしなかったでしょうし最もな意見だとは思いますが、流石に劇中で感情が高ぶると髪の毛が逆立ったり、ナウシカよろしくミミと戯れるアスナなんかはちょっとやり過ぎな気がします(苦笑)。
 
新海作品と言えばこれまでも惹かれあう男女のすれ違いを様々な形で描いて来ましたが、本作は其処を更に突き詰め「死別」というやり直しの効かない決定的な別れを通して残された人々が如何にして立ち直るかという部分に焦点を当てています。
メインキャラクターは皆肉親ないしは想い人を亡くしており彼等が死者をも生き返らせる事が出来るというアガルタを目指す姿からは、愛する者の死を受け入れる事が出来ない人々の想いが痛いほど伝わって来て、より強く「喪失」というメッセージが打ち出されています。
 
その一方、「ファンタジー世界の描写は目的ではなくテーマを語る為の手段だった」という監督の言葉が示す通り、世界各地の伝承を元に創造された地下世界アガルタは「星のない空」や「廃墟になった都市」「古の神々」といったファンタジックな要素を盛り込んでいるものの、その世界観は思ったほど広がりません。
登場人物たちも至極個人的な目的の為に行動しているため『天空の城ラピュタ』の様な世界の命運を掛けた冒険活劇にはなっておらず、異国を旅するロードムービー+αとして捉えた方が正しいでしょう。
 
体裁としてはファンタジーですが意外なほどコンパクトな作りなので物足りなさを感じるかもしれませんが、変に風呂敷を広げる事なくアスナとシンとモリサキの想いに絞って描いたのは良かったと思います。
これで「アルカンジェリ」がアガルタの英知を求めて攻め込んで来たりしたら、それこそ『ラピュタ』ですからね(笑)。
(けどアスナの父かアガルタ人だったかどうか位は描いて欲しかったな…)。
 
快活な主人公が明確な意思を持って相手に想いを告げようと努力する姿勢や、「喜怒哀楽の感情」・「躍動的な動き」・「怪我をして出血したり美味しそうに食事を頬張る」といった生きている事を強く感じさせるを描写など、今までの新海作品では排されていた要素も加わっており確かな変化を感じる事が出来る。
 
「それは"さよなら"を言うための物語」
 
というキャッチコピーを見事に体現したクライマックスとテーマ曲「Hello Goodbye&Hello」。
そして荘厳な雰囲気を醸し出す幻想的かつ圧倒的な"情景"美術の数々は本当に素晴らしかった。
 
大切な人を失う「喪失」と生まれて来た事への「祝福」。
世界はこんなにも残酷で美しい。
観終わった後、切なさと同時に暖かい気持ちが湧いてくる不思議な作品でした。