旧いまここにあるもの

Yahoo!ブログ時代のアーカイブ。記事内のリンクが上手く機能しなかったり、タイトルが文字化けしたり、画像のアスペクト比が可笑しいのはダメダメな移行機能の所為。新ブログはこちら→https://imakokoniarumono.hatenablog.com/

金ローで放送された『風立ちぬ』を観た。

イメージ 1
 
ゼロ戦の設計者である航空技師・堀越二郎さんの半生を描いた巨匠・宮崎駿監督の長編引退作にしてジブリ神話の終焉を告げる『風立ちぬ』が順当に地上波放送されたので観る。
宮崎監督が初めて実在の人物にスポットを当てた作品と話題になりましたが、大病を患った奥さんの設定などは堀辰雄さんの小説『風立ちぬ』からの引用であり、多くの部分に脚色が加えられているそうなので要注意。
そもそも原作は堀越さんの自伝ではなく『モデルグラフィックス』という模型雑誌に宮崎さんが連載していた漫画であるという点を留意したい。
 
そんな原作を映画化するにあたって飛行機のエンジン音や地鳴りといった一部の効果音をあえて人の声で収録したり、タレントキャスティングを越えた衝撃の素人キャスティングを敢行するなど、暴挙とも言える試みをしているのも本作のポイント。
普通のプロデューサーなら止めると思うのだが、まったくもってジブリという会社は不思議なところである。
 
開始早々、明らかに人の声で「ぶぅ~ん」「ごうんごうん」「ぶるるるるるるぅ~」と不自然な擬音が聞こえてくるのだが、これはこれで「実験」としてはありだし、子供が飛行機のおもちゃで遊ぶ感覚と堀越の純粋な飛行機愛を掛けた演出だと思えば納得できる。
 
しかし『新世紀エヴァンゲリオン』の生みの親にして宮崎監督の弟子にあたる庵野秀明さんを主演声優に起用したのは誰得としか言いようがない。
最初にこの話を聞いた時は「新手の嫌がらせか?」と思ったのですが、案の定棒読みで私はチラチラ庵野さんの顔が浮かんでしまいました(苦笑)。
もっともジブリ作品にいまさら素晴らしい声の演技を求める人間なんて居やしないだろうし、そういった意味でハードルは低く救われた感があります。
上記のような気になる部分が散見するものの、そこは巨匠・宮崎駿
巨神兵ラピュタもトトロもシシガミもカオナシも出てこない、ともすれば地味ですらある一人の技術者のドラマなのに面白い。
主人公の飛行機にかける情熱と共に監督の趣味が垣間見える細かな飛行機の描写、時代に翻弄され不本意ながら戦闘機を作る男と彼を慕い続けた病弱な女性の悲恋。
一部で「戦争を賛美している」とか「タバコを吸うシーンが多すぎる」などと頭の可笑しい連中が頭の可笑しい批判をしていましたが、これを観て他に思う事はないのかね?。
 
この話を理解し登場人物に共感するにはある程度の人生経験が必要であり、ジブリ作品だからと親に連れられて劇場に足を運んだお子様方はちんぷんかんぷんだったに違いない。
個人的にこういう作風は嫌いではないのだが、あそこまでの興行収入と映画賞を獲得するほどの出来だとは到底思えず、改めてジブリ信仰の恐ろしさを感じました。