悲しいかな
となっていたのですが、それも今回で最終巻。
人がロボットに見える不思議な瞳を持つ少女・毬井ゆかりは、その能力故ある組織に目を付けられ実験の果て無残な死を遂げてしまう。
ゆかりの親友であり、彼女によって「修理」された波濤学は、掌に埋め込まれた携帯によって繋がった並行世界の「自分達」と力を合わせてゆかりの死を回避する方法を探求していきます。
「毬井ゆかり」を救うという、ただ1つの目的の為にあらゆる手段を講じて行くマナブ。
人々の命や想いを踏み躙り、選択を間違ったらゲームをリセットするかのようにやり直す姿は「狂気」以外の何物でもない。
だが何度ゆかりの死の原因を排除しても何故か死は形を変え訪れる。「トライ&エラー」
他者を利用し、人を殺め、時間を遡り、自分である事を止め、やがて世界そのものを作り変え解決を図る。
気の遠くなる時を過ごし、誰にも「観測」されず「干渉」されない存在となったマナブ。
だがそんな彼女をゆかりの瞳はいとも容易く「捕捉」してしまう。
「フェルマーの原理」や「人間原理」にまで及んだ壮大な物語は最終的に「自分の運命を変えられるのは自分だけである」という抽象論に落ち着く。
どれだけ世界を変えたとしても、他人が個人の本質を変える事なんて出来やしない。
だからこそ自分だけの「クオリア」を胸に、言葉を交わし、気持ちを伝え、共に歩んで行こう。
それで運命が変わるかは解らない。
また悲しい結末が訪れるかもしれない。
だがラストシーンのゆかりとマナブの表情はとても晴れやかだった。
難解な専門用語が多くお世辞にも取っ付き易いとは言えませんが、イラストで補完してくれるぶん活字媒体よりはハードルが下がっているように思います。
クライマックスに向けての盛り上がりは相当な物で一気に読み切ってしまった。
個人的にこの物語を劇場アニメとかで観てみたいのだが京アニあたりで作ってくれないだろうか?。
巻末には原作者である、うえお久光さん書き下ろしの「箱の中の手紙」も収録。
この手紙をマナブが読んでいるのか、はたまた天条七美が預かったままなのか。
それは読む人の判断に委ねられますが、綱島さんが描いたゆかりとマナブのラフカットのような幸福な未来であって欲しいと強く願います。